ぽかぽかレター25

「はじめのい~っぽ!」 

作文教室も新しい仲間をお迎えして、元気いっぱいに今日からスタートします。新しい学年の始まりに、みなさまにご提案したいことが二つあります。

 一つ目は、「テキトーな不便のススメ」です。私たちの生活は、便利になりました。ボタンひとつで機械が完璧に仕事をこなしてくれ、時短もできます。しかし、その分、「脳みそを使っていない」ことを忘れてはなりません。かつて私にカウンセリングを教えてくださった先生が「風呂を沸かす、テレビをつける、電話をかける、米を炊く、これらは全く異なる行為であるにもかかわらず、ボタンを押すという同じ行為で完結させていることの矛盾に気づいていますか」とおしゃいました。ボタンを押せば便利に仕事を全うできるのですが、私たちの脳みそは働いていません。子どもたちの遊びも同じ。仮想空間で遊ぶことが当たり前の時代になりました。ゲームの中でかくれんぼをしても、実のところ座って指を動かしているだけで、ぽかぽかのお日さまを肌で感じながら、何とか身体を曲げて物陰に隠れているわけではないのです。ゲームの中で動物を育てても慈しむことや死という別れに心裂かれる思いはできないのです。やはり脳みそが働いていません。

 先日、叔父の家(母の実家)に花籠を贈ることになりました。母と私で花屋さんに注文に行き、送り状に叔父の住所と電話番号を書きました。母の実家の住所と電話番号は私にとってあまりに当たり前すぎて、携帯の住所録に記録していません。50年くらい昔に子どもだった私は、祖母に旅先から手紙を書いたり年中電話をかけたりしていたので、何も見ずに言えました。父母の実家の住所と電話番号、亡き3人の叔父宅、出身中学・高校、高校時代からの親友の家の電話番号は何年もかけていないのに、今でもスラスラと浮かんできます。でも、親友の今の電話番号は分かりません。アドレス帳に記録はされていても、ボタンひとつでライン通話をかけるからです。

 「書く力」には、ワーキングメモリ(覚えることと思い出すこと)が必要です。これは、トレーニングによってだけ鍛えられるものではなく、日常生活の中で徐々に養われます。しかも、楽しく過ごしているうちに身につけられるものだと思います。また、人間が行動をして脳に酸素が送られそこで消費されることによって、脳は発達します。

 作文を書いているとき、その出来事の中でお母さんはどのような顔をしていたのかといても「え、フツー」。楽しかったことは何かを聞いても「別にない」。このように答える子どもたちがたくさんいます。何を聞いても「フツー」というのが、ほとんどの子どもたちの反応です。いえいえ~。よく思い出してみたら、素敵なことと出会っているはず。ですから、たくさんの体験を惜しまないでほしいと私はいつも思っています。

 確かに手先が不器用な人にとって、便利な道具は「魔法使いからの贈り物」。忙しいママにとって、家事をさっさと完璧にこなしてくれる道具は「絶対にそばにいてくれないと困る相棒」です。しかし、ほんのちょっとだけ子どもたちと一緒に「テキトーな不便」を味わって脳みそを働かせてみてください。

 子どもの頃に覚えたあっちこっちの電話番号は、使ってもいないのに今でもスラスラ言える私。最近のことときたらすぐに忘れてしまう私からのご提案です。二つ目については、次のブログでお伝えします。